温泉文化研究所特別企画 3

仁寿湯 追悼企画

  別府の共同湯は年々減少の一途をたどっており、完全廃止され、今では施設の痕跡すらなく、更地になってしまっている場所や最近”ジモ化(組合員専用浴場化)”され、我々旅の者は通常では入浴できない”一般外来入浴不能”をうたっている施設さえあるほどで、別府に魅了された多くの方が毎年ため息をつくような事態が進行している。
  一方で別府温泉の公衆浴場マップには、さすが”泉都・別府”というべきか、観光客向けのパンフレットなのに元々一般外来入浴不可の浴場(組合員専用浴場)いわゆるジモ泉(専)も相当数取り上げられている。掲載されている時点で外来可能だった浴場(例えば南石垣温泉など)は、2007年にジモ化されたので、変更が追いついていないのも止むなしと思われるが、最初から外来不可の浴場の場合、観光をする者にとっては入浴できないとうたっている施設なので、掲載されていること自体、「別府にはこういう温泉文化もあります」という文化的な側面を表す記述なのではないかと推測しているのだが、いかにも共同湯王国・別府らしい話である。その公衆浴場マップにかつて掲載されていた組合員専用共同浴場の中で当研究所が最も温泉文化的側面から価値ある浴場として特別の評価を行っていたのが、温水泉である。
  当研究所、温水泉は地元の人に教えてもらい訪問し、そのあまりの美しさに感動し、我を忘れて靴下のまま洗い場に突進し、洗い場を洗うオーバーフローの流れで濡れたことによって初めて服を着ていたことに気づいた というエピソードがある思い出深い共同湯である。屋根瓦以外は木が多用された浴舎はいい感じのひなび具合に熟成され、当研究所の読者の方であれば、誰しもが一撃でやられるものとなっていた。しかし、こちらの浴場の最大のポイントはそのような一般的な魅力ともいえる浴舎なのではなく、その湯船にある。美しく澄んだ湯はなまめかしさを感じるほど透き通っていて、湯があるのかないのかわからないほどの透明感であるのだが、その湯底は別府に一番多いコンクリートの打ちっ放しではなく、まるで生きた美術工芸品のような陶器の絵入りタイルが埋め込まれていたのである。このタイルの美しさは現実に訪問し、自が目で見ないと伝わらないほどすばらしいものであったのだが、そんな貴重な施設がこの度(2007初夏)、諸般の事情により、取り壊され、更地に戻された。思い出深い温水泉を追悼し、ここにそれを偲ぶ。



温泉文化研究所(HOME) 》 別府温泉組合員専用共同湯(ジモ泉) 》  NO.33 温水泉


温水泉(ぬくみせん)
  別府をご存じの方には皆さんお馴染みの温水泉が廃止され、更地に戻されました。温水泉は「組合員専用浴場」です。”温水泉組合に加入している組合員以外は入浴禁止の浴場”として長く外来不可の浴場でした。しかし、近年(ここ3〜4年)は源泉の温度低下が著しく、晩秋〜早春にかけては地元の方の利用もあまり頻繁ではなかったのか、当研究所が別府訪問を常としている12月〜3月ころは比較的好意的に受け止めていただいていたようで、2002年に初訪問し、2004年、2006年、2007年と訪問し、都合4回入浴したと思います。最終的な廃止理由は定かではありませんので、温度低下は当研究所の憶測に過ぎません。
  ”ぬくみせん”。なんという味のある名前でしょう!そして今画像を見返しても、実に美しい湯船だったなあ、というのが素直な感想です。独立湯小屋という観点からすると、やや独立性と造形が微妙だった気もしますが、中に入ってみれば、脱衣所一体式の室内、木製の脱衣だな、木製の仕切り壁、高く開放感のある天井などなどすばらしい風情で、何よりタイルの美しさは滅多にないものでありました。

温水泉は2007年初夏に廃止されました。
このレポートにある施設は現存していません。

  普通の民家にしか見えない温水泉の浴舎。かろうじて正面の入り口が左右対称のアルミフラッシュドアになっているところ、また瓦の下の陰になっている部分に湯気抜きがあるところから、わかる人には湯小屋とわかると思います。   この共同湯は珍しいことに看板を完全に覆い隠す様な置き方で、外部に神棚をもうけてありました。神棚が外にあることも、看板を隠してしまっていることもあまりほかで見たことがありません。何か意味があるのでしょうか?


  これが温水泉の美術工芸品の様な湯船です。湯底には規則正しく陶製のタイルが並び、昔から地元で大事にされ、長く保たれてきた共同湯として風格さえ感じます。
  湯が透明でタイルの映え方が他の温泉とは一線を画しているのが伝わるでしょうか。特に青色のきれいさは突き抜けています。
  入り口周り。入ってすぐに壁に据え付けられた脱衣棚があり、そのまま洗い場につながっていました。このエリアは別府市内でも大変に静かなエリアで、湯船に身を沈めれば静寂に身を包まれました。
  湯船は洗い場に埋め込まれた様な形になっており、湯船の縁と洗い場に段差がありません。このような湯船の場合、オーバーフローが優しく洗い場を洗ってくれる反面、洗い場の石けん水などが逆流しかねません。共同湯それも”ジモ”だとたまに見る造形です。
  しかし美しい湯船です。まるで温泉水自体になにか色が付いている、つまり濁り湯なのではないかと錯覚してしまいそうになる一体感です。


  こちらが初めて訪問したときの様子です。この状態で手前がオーバーフローで濡れているにもかかわらず、靴下でずんずん入っていき、タイルに目が釘付けになってしまいました。その直後濡れた靴下を脱いで、ぱちりとしたところです。
  オーバーフローの湯が天然の河床を洗うかの様にさわさわと流れ去っていきます。
  あちこちカメラを置き換えてさんざん撮影しました。
  もう十分ですか?

  上:最後に訪問した2007年4月の頃の内部のほぼ全景。   下:タイルに湯ノ花なのでしょうか、変色が見られました。しかしこの段階でまさか完全に取り壊されるとは夢にも思いませんでした。


  こちらも最後の入浴となってしまいました。この日奇縁で知り合った知人のOさんをご案内しましたが、なんとすでに「入湯済み」とのこと。「恐れ入りました」。   この温泉がもう別府にないなんて・・・・、未だに実感できません。



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